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ロシアのITベンチャー、WEBサービス、起業家、スタートアップを紹介します。

ロシアのベンチャー投資市場

https://habrastorage.org/getpro/geektimes/post_images/96f/cc7/787/96fcc7787083268247554c5400a734ee.png

 

近年、日本では、いわゆるアベノミクス第三の矢として成長戦略が掲げられ、イノベーションの創出やベンチャー企業支援が進められて来ました。2016年の国内ベンチャー投資が前年比2割増の2,100億円を記録し、初めて2,000億円を突破しました。

www.nikkei.com

 

今回は、ロシアにおけるベンチャー投資について、概観してみたいと思います。

 

マクロ経済の影響色濃く

ロシアベンチャーキャピタル協会(RVCA: Russian Venture Capital Association)の調査によると、2016年のロシアにおけるベンチャー投資件数は、昨年対比+10.5%の210件で、投資金額は前年の85%にあたる$128Mでした。投資件数は2013年から基本的には増加傾向となっています。

 


出典:「RVCA」

 

▼ロシア初のベンチャー投資専門機関「Russian Venture Capital Association」

  • 1997年に設立
  • ヨーロッパの「Invest Europe」、「National Venture Capital Assocition」に加盟
  • 主な活動は、イベントの開催、専門家の育成・ベンチャー企業とのマッチング、各種リサーチの提供

www.rvca.ru

 

2013年から投資件数が急激に伸びている背景には、プーチン大統領の発案によって設立されたインターネットイニシアティブ開発基金」(iidf:Internet Initiatives Development Fund)の影響があります。主に、シードステージ・アーリーステージの企業を投資対象とする政府系VCファンドで、毎年80社程度に投資し、ファンド総額は60億ルーブルです。

 

▼「Internet Initiatives Development Fund」

  • 2013年設立、ファンド規模60億ルーブル、累計投資企業270社
  • 投資ポートフォリオ プレシード 193社、シード 13社、ラウンドA 3社
  • 12の地方拠点有り、各種アクセラレータプログラム開催

www.iidf.ru

 

また、2012年はロシア版シリコンバレーのスコルコヴォが創設された年であり、当初は潤沢な資金が投入されましたが、2014年の経済危機を境に市場におけるベンチャー投資額は低迷を続けています。これを受けて、一回の平均ディール額も2016年は$60万となっています。

 

政府主導のベンチャー市場

ロシアのベンチャー投資市場においては、どのような分野の投資案件が多いのでしょうか。

 


出典:「RVCA」

「RVCA」の調査によると、全体の7割近くがIT・通信系の投資案件であることがわかります。また、近年は医療分野やロボット産業への投資も増えてきています。

特にICT分野における投資案件の内訳として、最も多いのがビジネスソリューションの分野です。次いで、近年、数は減少しているものの、Eコマース、教育、広告分野への投資が多くなっています。一方、ここ数年増えているのが、キュレーションサービス・プラットフォームへの投資です。2016年は16件、$11Mが投資されました。

 


出典:「RVCA」

 

ロシアのベンチャー投資における一つの特徴として、政府系ファンドの投資案件の多さが上げられます。2013年には、投資案件の43.5%が政府系ファンドから投資を受けています。

特に、バイオ/医療、産業技術系の投資案件に関しては、2013年はほぼ100%政府系ファンドが投資しています。近年は、この政府系ファンドの投資案件数は、徐々に減ってきており、また投資分野もIT・通信分野への投資数が多くなってきています。


出典:「RVCA」

 

 

出口戦略

ロシアベンチャー市場において、最も問題とされるのが出口戦略です。日本のマザーズやJASDAQのように、新興企業向けの株式市場がない為、事実上、ロシア国内におけるIPOの可能性はないと言っても過言ではありません。

これらの状況から、ベンチャー企業にとってのExitは必然的にM&Aや事業売却が中心になります。2016年Exit件数は34件でした。件数自体は直近3年間で右肩あがりではあるものの、Exitにかかる金額は、2016年は前年の69%にあたる$590Mです。平均の売却金額は年々減少傾向にありベンチャー投資金額全体も減少傾向にあることから、しばらくは苦しい状態が続くと思われます。


出典:「RVCA」

 

また、外資系ファンドからの投資件数、金額、ともに減少傾向であり、ロシアのスタートアップが国外に出口戦略を見出すために、米や欧州に拠点を移す事例が多くみられます。私のいるサンクトペテルブルクでは主にバルト三国や東ヨーロッパに会社登記をして、開発チームだけをロシアに残すスタートアップが多くなっています。

 

世界における
ロシアベンチャー市場

やはり、世界のベンチャー市場と比較すると、ロシアのベンチャー投資は遅れていると言わざるを得ません。一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターの調査によると、世界で最もベンチャー投資が進んでいる米国、欧州に続いて、中国でもベンチャー投資市場が大きく成長しており、2015年には投資社数が3000件を超えています。また、冒頭でもあったように、市場が拡大してきており、2015年の投資金額は$1.16Bと、ロシアの約7倍の規模でした。

 


出典:「一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター

 

現状ではロシアのスタートアップは政府系ファンドからシードマネーを調達し、早々に海外に拠点を移し、海外でリスクマネーを調達することが得策と言わざるを得ない状況です。そういった意味では、日本市場から大手企業がオープンイノベーションなどの枠組みで、ロシアの優れたスタートアップに投資をし、日本市場や世界市場に展開していくという方向性はあると思います。

ロシアでLineが使えなくなった本当の理由とは

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ロシアで「Line」
が使えない?!

 

2016年11月にロシアで「LinkedIn」が使用停止になった報道は、日本でも驚きを持って迎えられたと思います。

 

wired.jp

 

それが今度は、「Line」も使用禁止になるというニュースが出ました!!!

meduza.io

ロシアの通信規制当局(Roskomnadzor)の発表によると、メッセンジャーappの「Line」 、「BlackBerry Messenger」、「Imo.im」、ビデオチャットの「Vchat」が今回は対象です。規制理由は、上記の4サービスが、「情報発信者としての登録を拒否した為」となっています。

ロシアの通信規制当局Roskomnadzor

https://rkn.gov.ru/

 

 

そもそも、なぜロシアはこれらのSNSメッセンジャーappを使用停止にするのでしょうか。事の発端は、2014年に制定された連邦法第242-FZ号「情報・電子通信ネットワークにおける個人情報の処理手続きの適正化に関する一部のロシア連邦法の改正について」で、従来の個人情報の取り扱いについて、法改正された事がきっかけです。

個人情報の国内管理規制

企業等が取得した個人データをロシア国内にあるサーバーで保管し処理すること(データローカライゼーション)を義務付ける法律(2014年7月21日付連邦法第242-FZ号「情報・電子通信ネットワークにおける個人情報の処理手続きの適正化に関する一部のロシア連邦法の改正について」)は、ロシア個人情報保護法を含む3つの連邦法の改正法として、2015年9月1日に施行された。同改正法では、ロシア国内の事業者(外資系企業の現法、支店および駐在員事務所を含む)および海外の事業者であっても、ロシア国内向けのウェブサイトを通じて個人情報を収集する者(オペレーター)は、ロシア国民の個人情報をロシア国内で保存、管理しなければならない。また、オペレーターは、個人情報(ロシア国民のものであるか否かを問わない)を処理するサーバーの場所を含む通知を通信・情報技術・マスコミ監督庁(Roskomnadzor)に提出しなければならない場合もある。

出典:JETRO外資に関する規制」

 

ロシアの通信規制当局(Roskomnadzor)のサイトでは、ドメイン、URL、IPアドレスのいずれかを入力する事で、サイトへのアクセス制限を見る事ができます。

 

▼入力画面

検索窓にドメイン、URL、IPアドレスのいずれかを入力する

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▼検索結果:「linkedin.com」

「LinkedIn」はモスクワ地方裁判所の決定により、条文15.5が適用されている。
条文15.5は「個人情報に関する権利侵害」。

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▼検索結果:「line.me」

「Line」の場合は「Roskomnadzor」によって法が適用されています。
条文15.4は「インターネット上の”情報拡散事業者”登録」。

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「Roskomnadzor」によると、「情報拡散事業者」の定義は1日に300,000人以上のユーザーからアクセスを受けるサイトを指します。そして、「情報拡散事業者」は連邦政府の有するレジストリに登録しなければいけません。これは、「Roskomnadzor」のサイトから自身で行うこともできます。今回、「Line」が利用停止にあったのは、この登録を拒んだ為ということになります。「LinkedIn」がロシア国内で利用できないのとは、少し事情が異なります。

 

この「情報拡散事業者」レジストリには、ロシア初のグローバル出会い系サイト「Badoo」や、「Yandex」「Mail.ru」「VKontakte」「Rambler」のようなロシアIT企業の雄、そしてIT系メディア「habrahabr(露:Хабрахабр)」「Roem」なども登録しています。

 

 

検閲と戦う「RosKomSvoboda」

禁止サイトや「情報拡散事業者」登録は、「RosKomSvoboda」のサイトから見る事ができます。

▼「RosKomSvoboda

rublacklist.net

 

RosKomSvoboda」は2012年に連邦政府による禁止サイトの一括管理(「サイトブラックリスト」)が決まってから、創立された民間機関です。規制当局である「Roskomnadzor」への対立機関として、その名前が付けられました(ロシア情報通信の”自由”の意)。現在は、個人情報にかかる権利保護と、不当にブロックされたサイトのオーナーの擁護活動を旗印に、IT業界に関わる法制定・規制制度のモニタリングと、サイトブロックへの反対活動を行なっています。また、各種統計や分析も見る事ができます。

 

▼ブロックサイトの摘発機関別割合

統計からは、摘発機関のうち、全体の35.8%を裁判所(青部分 露:Суд)、31.6%を税務庁(緑部分 露:ФНС)が占めている。「Roskomnadzor」は全体の9.9%に過ぎない。

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出典:RosKomSvoboda」

 

また、ロシアにおけるインターネット検閲の歴史も振り返る事ができます。

 

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日本ではロシアにおける外資のITサービスが利用停止のニュースは、ロシア対外資の文脈で報道される事が多いですが、それよりもロシア国内における検閲問題や報道規制などの、「表現の自由」「国家の個人情報管理」の問題が外資のITサービスにも影響を及ぼしていると捉える方が自然のように思います。

 

ロシア国内のIT企業は2014年の改正法制定に合わせ、大手企業も着実にレジストリ登録に取り組みました。また、Googleを始めとする大手の外資系IT企業も、2015年の改正法施行後、ロシアのサーバーにデータを移転する発表をしました。

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出典:ロシアNOW

 

 また、ロシアにおけるITパークもクラウドサーバーのサービス利用を推奨しており、2015年の改正法施行前の時点ですでに5,000社の申し込みを受けていると発表しています。

 

国内外の大手IT企業はロシア政府の法改正に反対しながらも、柔軟に対応しており、今のところサービス停止になっているのは数社程度です。「LinkedIn」もMicrosoftを通して、当局側とコンタクトをとり、サービス復活を検討しているとも言われています。

 

とはいえ、外資系のIT企業にとっては、データ移転に関するコスト増は避けられません。

主にサーバおよびストレージ・システムの購入、エンジニアリング・サービス、またデータ保護設備、通信チャネル設備、ソフトウェア・ライセンスの購入などの費用だ。ロステレコムと契約を結んだグーグルの場合、自社サーバ用スペースの賃貸契約額が月10万8000ルーブル(約20万2000円)である。このような大手企業は、数百台から数千台のサーバを必要とするという。

出典:ロシアNOW

 

また、昨年外資のIT企業が提供するWeb上のコンテンツ(オンラインゲーム、音楽、データベース、CRM、検索サービス、ホスティング電子書籍、動画、画像)に関しても、付加価値税を課税するという法律が制定され、Google付加価値税の18%分を上乗せするという文面をクライアントに送っていた事がわかりました。

 

上記のブロックサイトの摘発機関において、全体の30%が税務庁である事からも、今後は税制面でも外資のIT企業に関しては、規制が強まっていく事が想定されます。

 

 

今までのロシアにおけるインターネット検閲と外資規制の歴史と現状を鑑みると、今回の「Line」の一件は、単にサイトがブロックされたのではなく、ロシアは「Whatspp」「Viber」の利用者が多く、またVKの創設者であるPavel Durovが開発した「Telegram」の利用も広まりつつある中で、サーバー移転費用や今後の課税問題と、市場における競争環境からビジネスジャッジとして、「Line」がレジストリ登録を拒否したのかもしれません。

 

ロシアのVR市場を牽引する「Fibrum」

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ロシアにおけるVR市場

2015〜2016年にかけて、「AVRA」(Association of argmented and virtual reality)の調査によると、ロシアにおけるVR/ARのベンチャー投資金額は、200万Rubから700万Rubに成長しました。これは、世界のVR/ARのベンチャー投資金額(1200万USD)の約0.5%に当たります。一社当たりの投資金額は15,000~250万USDでした。2017年には投資金額がさらに2倍に成長すると見込まれています。

▼「AVRA」(Association of argmented and virtual reality)
個人と民間企業からなるロシアのVR/AR業界における非営利団体。会員からの年会費によって賄われており、各種イベントの開催やレポートの発表、会員同士のネットワーキングを行っている。

ar-vr.org

 

また、MOMRI」(Modern Media Research Institute)の調査によると、2016年、VRの消費市場としては、製品(HMDやモーションコントローラ)、ソフトウェア開発、VRコンテンツが12億Rub、ビジネスの現場におけるVR技術を用いたソリューションは3億4820万Rubでした。これは、2015年と比較すると3,8倍の成長率です。

▼「MOMRI」(Modern Media Research Institute)
マスメディア系リサーチ会社。2016年に他メディア企業と共に「VRコンソーシアム」を立ち上げる。

MOMRI — Институт современных медиа

 

また、同調査において、2020年までにロシアにおけるVRの利用者は、現在の56万人から541万人まで増えると推測されることが、報告されています。 

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2015年から2016年にかけてロシアにおけるVR/ARの企業数は60社から183社へと大きく数を伸ばしました。そのうち、2/3がモスクワを拠点とする企業となっています。また、企業の規模としては社員数が20人以下のスタートアップベンチャーが多くなっています。ビジネスの現場にVRソリューションを持ち込んでいるチームの数は、300チーム以上になっています。

 

2016年は、ロシアの大手企業も相次いでVR事業への参加を表明しました。代表的な企業としては、Сбербанк, "СИБУР", Росатом, "Газпром"があります。また、2016年9月にはMail.ru GroupもVRゲームのプロトタイプを発表しました。

 

 

VR技術の成長分野

新聞社「Business Petersburg」のインタビューの中で、Oleg Kelnik(Planoplan共同創業者)は、「不動産業界ではデベロッパーがVRの導入を始めている。主にデザイン・設計と、建物のデモンストレーションでだ。一般消費者向けはまだ技術自体が高すぎる」「2017年末に向けて、警備・セキュリティ業界における人材育成にVR技術が生かされる」と答えています。

▼「Planoplan」
2Dの設計図からVR上で部屋を再現し、インテリアの配置をデザインするソフトを開発している。

planoplan.com

 

2015年にVRソリューションが活用された市場としては、広告・マーケティング分野でしが、2016年になると、教育・娯楽分野、不動産分野でのVR技術の活用が盛んになりました。今後は、エンターテイメント・娯楽分野(アトラクション、ゲーム、360°映画)、教育分野(企業研修など)が成長すると見込まれています。

 

2016年、ロシアの大手VCである「Sistema VC」は、教育系VRを提供する「MEL Science」に投資しました。

▼「Sitema VC」
モスクワに拠点があるVC。Ozon.ru、YouDO、NFWare、VisionLabsなどに投資している。画像認識や自然言語解析、VR/AR技術に注力している。

Sistema Venture Capital (Sistema_VC)

 

▼「MEL Science」
VR技術を活用した子供用化学実験キットのサブスクリプションビジネス。2016年に「Sistema VC」から$2.5Mの投資を受けている。

melscience.com

 

ロシアのVRを牽引する「Fibrum」

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FIBRUM Virtual Reality · Fibrum

FibrumはモバイルVRのハードウェア開発と、VRコンテンツ・ソフトウェア開発の会社です。創業は2014年で、現在は35人のチームを抱えています。自社開発のモバイルVR「Fibrum Pro」は、米:AmazonBestBuy, Bluewire、欧:Media Markt, Müller, Gravis、露:М.Видео, Связнойで購入することができます。また、BtoC市場だけでなく、民間企業や政府系の開発案件も受託しています。

▼「Fibrum Pro」サイト上で$49で購入可能

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Fibrumは、2014年カザンで行われたSEOカンファレンスに参加して、「Fibrum Pro」を紹介して、脚光を浴びました。

VII SEO конференция / SEO conference - Казань, 29-30 сентября 2016 год

 

 

2015年には、GoogleとAliExpressからも表彰を受け、その年にSkolkovoレジデンツになっています。2015年に開催されたSkolkovo主催の「Startup Village 2015」においてBest Global Startup賞を受賞しています。また、先日ご紹介したHigh School of Economics主催の「Startup of the Year」においても2015年度のハードウェア賞を受賞しています。

▼「Startup of the Year」とは

russiabuzz.hatenablog.com

 

 

Fibrumは2016年から、ハードウェアの開発・販売からソフトウェア開発の方に事業を ピボットしました。すでに30種類程度のVRアプリを制作・販売していましたが、VRアプリの開発者とユーザー、そしてVR製品のメーカーをマッチングするプラットフォーム「Fibrum Platform」を展開しました。現在はソフトウェアからの収益が全体収益の50%を超えています。

▼「Fibrum Platform」

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FIBRUM Virtual Reality

 

 マネタイズ方法もユニークで、2017年には「Fibrum Game Cards」というサブスクリプションモデルをローンチしています。このカードを購入しプロモコードを先ほどの「 Fibrum Platform」でアクティベートすることで、Fibrumのアプリを無料でダウンロードすることができるようになります。料金設定は以下の通りです。

  • $4.95/30days
  • $9.95/90days
  • $17.95/180days

▼「Fibrum Game Cards」

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また、上記のカード以外にも「Best VR attructions」カード($4.95)や、「Best VR Apps for children」カード($9.95)など、ジャンルごとにも様々なカードを販売しています。

 

Fibrumのこのマネタイズ方法は、特にギフト商戦において成功しました。2016年のクリスマス時期のアプリダウンロード数が昨週対比で、Google Playで218%、AppStoreで448%を記録し、年末商戦と合わせると93万ダウンロードを記録しています。「Fibrum Pro」と「Fibrum Game Cards」を合わせても、$70以下ですから、素晴らしいマーケティング戦略だと思います。

 

Fibrumは昨年度のCESやSXSWにも積極的に参加しています。ソフトウェア販売に関してはすでに海外からの売り上げが80%を超えています。「Fibrum Pro」だけですでに30,000台以上販売しており、アプリのダウンロード数は1800万ダウンロードを記録しています。

 

画像加工アプリの「Prisma」など、ロシアでは画像認識・モーション認識 の技術が伸びてきているように思います。今後は、VRもオンライン上で完結するものではなく、モーションコントローラと組み合わせた形や、AR技術の発展が期待されるのではないでしょうか。

 

参考記事→

www.forbes.ru

 

 

 

「Startup of the Year 2016」(3) ~ソーシャルスタートアップ・オーディエンス部門~

最終回は、”Startup of the Year 2016”のソーシャルスタートアップ賞と、オーディエンス賞を紹介します。

 

 

 

ソーシャルスタートアップ賞:UNA

www.unawheel.ru

 

Supreme Motorsが開発した「UNA WHEEL」は、市販の車いす電動車いすに変えてしまう脱着可能型の電動エンジンです。


UNA WHEEL

 

「UNA WHEEL」の総重量は11kgで、車椅子使用者が他の人の手を借りずに、30秒ほどで取り外しできるように設計されています。脱着可能型といっても、非常にパワフルな電動エンジンで3~4hの充電によって、35km走行することが可能です。最大速度は15km/hで、車椅子の重量と合わせて150kgまで牽引できるようになっています。走行可能な傾斜角度も35°まで対応しています。

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価格も70,000Rub(約14万円)とリーズナブルです。日本で電動車いすを購入しようとすれば、大手メーカーのスズキで約30~40万円、 昨年大型の資金調達をした次世代パーソナルモビリティの開発を手がける「WHILL」は99,5万円、アメリカで開発された世界最軽量の電動車椅子「ZINGER」は19,9万円です。

▼スズキ電動車いす価格帯

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jp.techcrunch.com

 

www.zinger-japan.com

 

Supreme Motorsのメンバーは4人です(Nikolay、 Sergei K.、Sergei P.、Igori)。彼らは、2014にこのアイデアを思いつき、モスクワ国立工科大学(MGTU)と共同で約2年の歳月をかけてプロダクトを完成させました。

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www.bmstu.ru

 

現在は、ロシアで最も大きいクラウドファンディングサイトである「Planeta.ru」で、100万Rubをゴールに資金調達をしています。また、昨年からPlaneta.ru、Russian Venture Company(RVC)、EVA Investの三社が共同でハードウェアスタートアップ向けのプロジェクト「Technology Battle」を始めました。ここでもファイナリストに選ばれ、10万RubのプレミアとEVA Investとの1on1ミーティングの機会を獲得しています。

 

▼ロシアNo1のクラウドファンディングサイト「Planeta.ru」

planeta.ru

 

▼ハードウェアスタートアップ向けプログラム「Technology Battle」

promo.planeta.ru

 

ロシア連邦社会政策・労働省によると、ロシアにおける障害者用車いすの利用者は、32万人とされており、2011-2012年には国家予算における障害者への社会保障費として、4,246億Rubが計上されています。一方で、日本においては、H28の手動車椅子出荷台数は48万台(一般財団法人 自転車産業振興協会技術研究所調べ)、H27の自立支援給付金(障害福祉サービス)が9,330億円(参議院 厚生労働委員会調査室調べ)でした。

 

市場規模に関しては、ロシアに比べて、日本の方がやや大きいものの、日本では今後電動車イスは、マイクロEVに代替されるとの見方もあります。一方で、ロシアでは車いす利用者の90%がいわゆる市販の手動車いすを利用しており、「UNA WHEEL」のようなパワフルでデザイン性の高い車いすの利用者が少ない為、潜在需要はあるかもしれません。

 

しかし、ロシアの場合は歩道の整備環境が日本に比べ、圧倒的に劣悪である為、ユースケースを一般公道利用以外にも考える必要があるかもしれません。

 

何れにせよ、「UNA WHEEL」のような製品が出ることで、老人・障害者の生活にさらなる多様性と活力が生まれてくれたらと思います!

 


 

オーディエンス賞:Педиатр 24/7(英:Pediator24/7)

pediatr247.ru

 

「Pediator24/7」は、Mobile Medical Technology社が提供している小児用の遠隔医療のサービスです。24h365日、インターネット上で小児科医からのアドバイスを受けることができます。提携医療機関が24h体制で、対応してくれるようになっています。

 

ユーザーはまず、[当直医にすぐに相談]か[専門家への相談を予約]を選択します。

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[当直医にすぐに相談]の場合は一回800Rubです。

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[専門家への相談を予約]する場合には、カレンダーから日時を指定します。また、料金は専門家によって異なります。

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アドバイスは、PCブラウザ、モバイルappのどちらからでも受けることができます。また、インターネット通信の状態が悪ければ、担当医から電話を受けることもできます。

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「Pediator24/7」は小児科医に特化したサービスですが、同社が提供する「Online Doctor」は医療分野を限定しない類似の遠隔医療サービスです。

onlinedoctor.ru

 

「Pediator24/7」の創業者でもあるAleksandr Smbatyanはシリアルアントレプレナーです。他に、インターネットショッピングサイトの「Aizel.Ru」、ショッピングクレジットの「vkredit24.ru」、ファッション系メディアの「Buro24/7」を創業しており、また、医療系サービスを投資先にもつVCのGenome Venturesの創業者でもあります。

Genome Ventures

「Pediator24/7」もGenome Venturesから出資を受けています。

 

「Pediator24/7」の創業は2013年です。子供の成長に関する母親たちの相談をすでに12,000件以上受けています。その相談のほとんどが、「子供に何を食べさせるべきか」というもので、相談の85%はモスクワ、サンクトペテルブルクを除くロシアの地方都市からのものだそうです。

 

「Pediator24/7」は今後、障害者児童向けの医療サービス展開と、人工知能を活用したBotによる遠隔診療の開発を行っていく予定です。

 

 

ヘルスケア分野に特化したVCのRock Health社のリサーチによると、2016年のロシアにおける*eHealthサービス市場は昨年対比+19%の成長をみせています。ロシアのプーチン大統領も今後2年間で、全ての医療機関をインターネットで接続し、遠隔医療に力を入れていくと発言しています。4,000人のロシア人を対象にしたアンケートでは、実に回答者の40%以上がすでに何らかの形でeHealthサービスを利用したことがあるとわかりました。

*情報通信技術を積極的に医療に導入することで個人の健康を高める仕組み。

rockhealth.com

 

市場の拡大に伴い、プレイヤーも多様化しています。「Pediator24/7」や「Online Doctor」以外の遠隔医療プレイヤーとしては、以下の企業が挙げられます。

▼「ONDOC」
個人の医療データを集約し、診察や処方に役立てる

ondoc.me

 

▼「Welltory」
個人の健康に関するアドバイスがもらえるモバイルapp

welltory.com

 

▼「Doctor at Work」
医者の為のネットワークサイト

www.doktornarabote.ru

 

▼「Helfine Medical」
ドイツ人の医師からセカンドオピニオンがもらえる

www.helfine.ru

 

 ロシアでは2015年から遠隔医療についての議論が活発化してきています。その発端となったのは、ロシア連邦保健・社会発展省と「IIDF(Internet Initiative Development Fond )」、「IID(Institute of Internet Development)」、Yandexの三社が遠隔治療に対して異なる意見をぶつからせた事でした。ロシア連邦保健省は、遠隔治療はあくまでも、相談やアドバイス、経過観察などの領域にとどまると主張しましたが、民間三社は遠隔治療は診断や薬剤処方も含む定義であると反論しました。

 

日本における遠隔医療については、2015年の政府の方針転換を機に、一気に規制緩和の流れとなっています。

www.nikkei.com

 

ただ、ロシアの実際の医療現場においては、医師が患者から直接メッセンジャーアプリなどで相談受けるようないわゆる「黒い医療行為」が数年前から頻繁に行われており、患者を守るという意味でも、早急な法整備が求められています。

 

また、ロシアにおける遠隔医療のニーズの高まりの裏には、ロシアならではの医療従事者の賃金の安さも関係しているかもしれません。本来であれば、国民の生活を支える社会インフラに携わる者として、しかるべき待遇が守られていない現状があります。
下の図では、ロシアの医師の平均賃金は25,000Rubであり、ドイツの約1/10、アメリカの1/17の給料しかもらえていません。

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Startup of the Year 2016はいかがでしたでしょうか。今年は医療や建築など、既存の業界に最新のインターネットテクノロジーが導入され、新しい価値を生み出すスタートアップの姿がみられました。今後もこういった流れは加速していく事でしょう。

 

最後に、受賞チーム以外でも、フィナリストはスポンサーからのプレミアを受けるチャンスがあります。今年のプレミアはカシペルスキー研究所とMicrosoftが提供しました。
カシペルスキー研究所はビッグデータ解析のスタートアップ「Tusk Pro」に賞状を、MicrosoftMicrosoft Bizparkで使える12万USD相当のプレミアを、マイクロファイナンス向け信用調査サービスの「Scorista」にプレゼントしました。

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参考記事→

vc.ru

 

Денис Юдчиц, «Педиатр 24/7»: Мы решили сделать сервис для мам, который доступен круглые суткиmhealthrussian.wordpress.com

"Startup of the Year 2016"(2) ~ハードウェア・フィンテック賞~

前回に引き続き、”Startup of the Year 2016”の受賞チームを紹介したいと思います。 

 

ハードウェア賞:Apis Cor

apis-cor.com

 

Apis Corはシベリアイルクーツクで生まれた建設用モバイル3Dプリンタのスタートアップです。トラック一台で移動できる2tのモバイル3Dプリンタで、実際に住宅用建物を建設することができます。

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"Startup of the Year 2016"発表!!!(1)

今回は、モスクワのDigital Octoberで開催された、”Startup of the Year 2016”に特派員のキリル君が参加してくれました!

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www.digitaloctober.r

 

 ”Startup of the Year”とは?

award.inc.hse.ru

"Startup of the Year"は、2008年から始まったビジネスコンテストで、今年で9回目を迎えます。イベントの主催は、"High School of Economics"(通称HSE)という教育機関です。これは私立の大学で、MBAコースも準備しています。大学内にはスタートアップを支援するインキュベーター機能があり、Startup of the Yearはこのインキュベーターが主に企画運営しています。

 

High School of Economics

www.hse.ru

 

Startup of the Yearは、コンクールへのアプライから最後のビジネスピッチコンテストまで約1ヶ月の間で運営されます。流れは以下の通りです。

  1. HSEにコンクール申請書を提出する
  2. 二週間後に4つの部門毎にスタートアップ3社がそれぞれノミネートされる
    (審査員、VC、個人投資家、大企業、成功しているスタートアップの代表者)
  3. 1週間〜10日後にビジネスピッチコンテスト&受賞セレモニーが開催される
  4. ノミネートされた12社にはパートナー企業から賞品をもらうことができる
    今回は、Microsoftからグラントで$120 тыспо программе Microsoft BizSpark。そのほか気に入ったチームには、корпорация готова подарить грант в размере $25 тыс на год.の準備がある

今年のパートナー企業は、Raiffeisenbank(オーストリア系銀行Raiffeisen Bank Internationalのロシアにおける子会社)、MTC(ロシアの大手通信会社)、PepsiCo、カシペルスキー研究所、Microsoftでした。

 

Startup of the Yearの過去ノミネートor受賞チームには、今までにご紹介したComfortway、YouDOも含まれており、近年ロシアにおけるスタートアップの登竜門として存在感を発揮しています。

 

russiabuzz.hatenablog.com

  

russiabuzz.hatenablog.com

 

 

Startup of the year 2016!!!

Startup of the Yearでは、4つの部門(グローバル、ハードウェア、フィンテック、ソーシャル)に分けて選考を行います。また、当日の会場投票でオーディエンス賞も一社選ばれることになっています。

それでは、2016年度の受賞スタートアップを紹介していきます。 

 

グローバル賞:Statsbot

statsbot.co

Statsbotは2015年11月創業のスタートアップで、Slackの拡張ツールを提供しています。Google AnalyticsやMixpanel、Salesforceと連携させることで、サイト解析のサマリーをSlack上に定期的に流してくれるbotサービスです。

例)Slack上に流れてくるサマリー

https://static40.siliconrus.cmtt.ru/paper-media/93/e1/4f/d390f3761f3dab.png

Statsbotのアイデアは、CEOのArtyom Keydunovの前職の経験から生まれました。彼は、遠隔でエンジニアチームと仕事をしていたことがあり、その時にあらゆるコラボーレションが生まれる場所ーすなわちSlack上にーGoogle AnalyticsやMixpanelのデータを引っ張ってこれないかと考えました。

 

現在チームは、10人弱まで成長し、オフィスも昨年からアメリカに移しました。

 

2016年にSeedラウンドで約$2Mを調達しています。インベスターの中には、500Startups やSlack Fundも含まれています。

Slack инвестировал в российский проект Statsbot и ещё 10 стартапов

 

利用者は順調に伸びてきており、今年2月の時点で20,000人を突破しています。法人利用としては、Vimeo、Product Hunt、Y Combinator、 Khan Academy、 NASANikeBBCSalesForceなどの大手企業でも活用されています。

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*各種インタビューから作成

 

2016年6月の段階では無料プランがありましたが、2017年3月現在はフリートライアルを除き、基本は全て有料プランになっています。

↓2016年6月

https://qiita-image-store.s3.amazonaws.com/0/119581/2c9e24c7-55b7-3529-f2cb-ac47ae1bef7b.png

↓2017年3月

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Statsbotは元々、アメリカのProduct Huntで紹介されて飛躍的に認知度が上がりました。Product Huntはスタートアップが新しいプロダクトを露出する場として注目されているソーシャルニュースです。

www.producthunt.com

 

その他にもHacker Newsや、Google Analyticsの公式ツイッターでも紹介されており、日本でもQiitaを通して紹介されています。

qiita.com

 

現在もPR戦略に関しては、コンテンツマーケティングに注力しており、自社でマーケターを抱えながら外部サイトに記事を書いてもらうことで、認知度を高めています。

今後はサービス改善にさらに力を入れ、異なるソースから集められたデータを用いて、企業にとって最適なインサイトを提供できるようにしていくとのことです。

 

次回は、ハードウェア賞・フィンテック賞について紹介したいと思います。

 

 

ロシアWeb4.0"Neuronet" ≪スタートアップ紹介:ビジネスプロセス最適化≫

http://neuronet.utk.edu/images/slideshow/main3.jpg

ロシアWeb4.0 ”Neuronet” 

日本でもここ数年、ニュース等でAI、機械学習ディープラーニングという言葉をよく見るようになりました。今回は、これらの技術の中心的なアプローチとなる、ニューラルネットワークについて、ロシアの現状をお伝えできればと思います。

 

ニューラルネットワーク理論は、1943年にウォーレン・マカロックとウォルター・ピッツというアメリカの神経生理学者と数学者によって考案されました。ニューラルネットワークは人間の脳と同じように高度な認識・思考能力を獲得できるのではないかと、当時は期待されましたが、一方で当時のコンピューターの能力では課題も多く、限界にぶち当たってしまいました。しかし、2006年、深層学習(ディープラーニング)の理論が発表されると、従来抱えていた課題が解決され、一気に実用化へ進むようになり、第3次AIブームの火付け役となりました。

 

o2o.abeja.asia

 

ロシアでは、1988年にロシア人口知能協会(RAAI)が設立され、現在300人以上の研究者が在籍しています。RAAIによって2年に一度、全国人工知能学会が開催されています。

 

ロシアにおける人工知能機械学習を知るためには、キーワードとして"Neuronet"という言葉を覚える必要があります。これは、ロシアではWEB4.0とも言われ、2030-2040年にかけて、人間・動物・人工知能がニューラルテクノロジーを活用してコミュニケーションするステージと定義されています。

Нейронет — Википедия

 

また、2009年に、政府ービジネス・研究間の相互協力について発表があり、27のイノベーション技術分野について、政府が貢献していくことが決まりました。その内の一つである”未来医療”分野において、ニューロンテクノロジーが発表されました。

2014年にロシアベンチャーカンパニー(RVK)によって、国内外の専門家が集められ、ニューロンテクノロジー・ロードマップセミナーが開催されました。同年、プーチン大統領の要請によって、ナショナルテクノロジーイニシアチブ(NTI)が設立された際に、注力していく9つの成長分野の中に"Neuronet"が組み込まれ、その言葉の定義が生まれました。

ナショナルテクノロジーイニシアチブ

http://science.spb.ru/images/news/announce/2016/11/26.jpg

http://www.nti2035.ru/

 

2015年、NTIの報告の中で、ロシアにおける2035年までの"Neuronet"ロードマップが正式に発表されました。

http://gmpnews.ru/wp-content/uploads/2015/10/neuronet.jpg

 

 

 

市場規模

2016年、世界のAI技術への投資額は5億USDに達しました。4大会計事務所のEY社の調査によると、2020年までに世界の人工知能市場は、運輸分野から教育分野に至る幅広い分野において、2000億USDまで成長するとされています。

以下は2016年に、世界でAIスタートアップ企業に投資された分野別投資額のグラフです。

https://venturescannerinsights.files.wordpress.com/2016/03/slide21.jpg

                                                                   出典: artificial intelligence company list

 

一方でロシアでは、上記のNTIが策定したロードマップの中では、2016年におけるニューラルネットワークの市場規模は4億Rubとされており、2020年には440億Rubと推定されています。2035年までに世界シェアの2.5%以上を取ることが目標に掲げられています。 

 

 

国策

2015年に、大統領付属ロシア経済近代化・イノベーション発展評議会によって"Neuronet"は承認されました。これは、企業と個人からなる業界団体です。

rusneuro.net


2035年までのロードマップの中で、以下の市場セグメンテーションに分けて、イノベーションを加速化させていくとしています。

  • NEURO PHARMA
     遺伝子療法・細胞療法
     パーソナライズ化された早期予防診断
     神経変性疾患の予防と治療
     健全者における認知能力の向上
  • NEURO MEDTECH
     神経プロテーゼと人工感覚
     障害者のリハビリ現場におけるニューラルテクノロジーの活用
     ロボットセラピー
     ニューラルインターフェースの開発
  • NEURO ENTERTAINMENT AND SPORTS
     脳フィットネス
     ニューラルテクノロジーを活用したゲームコンテンツ・ガジェットの開発
  • NEURO EDUCATION
     教育現場におけるVR/AR、ニューラルインターフェースの活用
     ニューラルテクノロジーの教育プログラム・製品への応用
     記憶力強化の為の製品、脳の働きを分析する製品
  • NEURO COMMUNICATION AND MARKETING
     ニューロマーケティング
     生体認証データの活用による個人・マスの消費動態の予測
     意思決定支援システムの構築
     感情推定技術の発展
     集団行動における生体プロセスの最適化技術
  • NEURO ASSISTANTS
     自然言語処理技術
     ディープラーニング技術の発展
     ヒトと機械の電脳ハイブリッドアシスタントのパーソナライズ化

 

政府は、教育科学省と金融省の予算の元、NTIへ125億Rubの予算配分を行なっており、2016年に80億Rubが消化され、2017年は残りの40億Rubが使われることになっています。 

 

 

イベント

人工知能の開発が進んでいるのはモスクワのSkolkovoで、主にロボティクスの分野で研究が進んでいます。定期的に開催されるSkolkovo Roboticsでは、その研究成果を見ることができます。また、ロシアの検索大手Yandexも検索技術の中で、人工知能を活用しています。以下は、ロシア国内で開催されている主な人工知能系のイベントです。


▼Skolkovo.AI

画像解析、会話AI、チャットボット、チューリングテスト、AIインターフェースデザインの5つの主なトピックで2016/11に開かれたカンファレンス。

sk.ru

 

▼AI Hackathon St.Petersburg
FlINT CAPITALが2017/03にSpBで開催したAIハッカソン

hackathon.ai

 

▼EDHACK: CHATBOTS AND AI HACKATHONS CUP
2016/09に教育科学省とedXが共催したAIとチャットボットのハッカソン

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http://edhack.misis.ru/

 

 

スタートアップ紹介:
ビジネスプロセス最適化

▼Digital Genius

www.digitalgenius.com

Digital Geniusは2016年、米Forbsの«30 Under 30»にノミネートされた注目のスタートアップです。ファンウンダーのDmitry Aksenovは、当時若干23歳。独学でロボット工学と人工知能を学習し、初めてロボットを作ったのは7歳という天才児だったようです。

Digital Geniusは、企業のカスタマーサービスをAI技術を使って効率化させるアプリケーションです。

コールセンターなどに導入され、SalesForceなどのCRMから過去の顧客とのやりとりをディープラーニングによって解析します。

顧客からくる問い合わせ(メール、ソーシャルメディア、メッセージアプリ、Live Chatなど)を優先度、質問形式、状況などの5つの項目でタグ付けし分類します。

https://www.digitalgenius.com/wp-content/uploads/2017/02/unspecified-6-395x434.png

 

質問内容に対してAIがベストアンサーを提案してくれるので、オペレーターはそのまま返答するか、文章を一部修正して、パーソナライズするかを選択します。

https://www.digitalgenius.com/wp-content/uploads/2017/02/timeline-c@2X-482x413.png

 

また、質問に対する返答の妥当性について、%で表示されるので、ある一定値を超えた段階で、自動返答する設定をすることができ、またその基準も自由に選択することができます。

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人工知能というハイテクと、オペレーターというローテクをうまく組み合わせたサービスの実現を目指しており、このシステムの導入によって、オペレーターは最大30%まで、作業キャパを増やすことができるとされています。

 

また、カスタマーサービス以外にも、プロモーションとしてもDigital Geniusの技術は活用されています。例えば、昨年、ユニリーバのブランドであるクノールとパートナーシップを組み、アジアおよびアフリカ市場で展開した「Chef Wendy」があります。テキスト・メッセージを活用し、消費者が自宅にある食材でより良い食事を作るようレシピを提供するサービスです。

 

ジョージア(旧:グルジア)との国境付近、カフカス山脈の麓の町、ヴラジカフカスで生まれたDmitry Aksenovは、2008年にロンドンへ留学します。その後、カレッジに進み、在学中に今のビジネスモデルの原型を発案します。創業は2013年、今では30人弱のチームを抱えています。2015年に$3M、2016年に$4.1Mのシード投資を受けています。ラウンドには、以前に紹介したRuna Capitalも参加しています。

オフィスはロンドンとNYにあり、Digital Geniusの他に、Fin Geniusという金融業界に特化したカスタマーサービスAIも運営しています。

 

インタビュー記事→

www.fusionwire.net

 

▼Behavox

主に金融業において、ビッグデータ機械学習音声認識のテクノロジーを使い、企業内コミュニケーションにおけるコンプライアンス遵守を助ける。

www.behavox.com

 

 ▼Leadza
ニューラルネットワークを活用したFacebookInstagram広告最適化サービス。

www.leadza.ru

 

 ▼GuaranaCam
機械学習を活用したオフライン広告最適化サービス。商業施設の監視カメラネットワークを利用して、来店者の購買活動を分析する

GuaranaCam | GuaranaCam

youtu.be

 

▼LogistiX

人工知能を活用した倉庫機能最適化。

logx.ru

 

▼BFG Soft

クラウド型プラットフォーム。ビッグデータやAIを使って、製造業における新しい設備導入や業務改善プロセスのビジュアルモデルを作成する。

bfg-soft.ru

 

 ロシアでも人工知能を活用したサービスは、生まれてきていますが、世界と同様に、人材獲得競争になっています。国もプーチン大統領のイニシアチブにより、人材育成、国際競争力強化に乗り出していますが、西側との差は大きく開いているのが現状です。
今後の動向に注目したいと思います。