ロシアWeb4.0"Neuronet" ≪スタートアップ紹介:ビジネスプロセス最適化≫
移転しました。
ロシアWeb4.0 ”Neuronet”
日本でもここ数年、ニュース等でAI、機械学習、ディープラーニングという言葉をよく見るようになりました。今回は、これらの技術の中心的なアプローチとなる、ニューラルネットワークについて、ロシアの現状をお伝えできればと思います。
ニューラルネットワーク理論は、1943年にウォーレン・マカロックとウォルター・ピッツというアメリカの神経生理学者と数学者によって考案されました。ニューラルネットワークは人間の脳と同じように高度な認識・思考能力を獲得できるのではないかと、当時は期待されましたが、一方で当時のコンピューターの能力では課題も多く、限界にぶち当たってしまいました。しかし、2006年、深層学習(ディープラーニング)の理論が発表されると、従来抱えていた課題が解決され、一気に実用化へ進むようになり、第3次AIブームの火付け役となりました。
ロシアでは、1988年にロシア人口知能協会(RAAI)が設立され、現在300人以上の研究者が在籍しています。RAAIによって2年に一度、全国人工知能学会が開催されています。
ロシアにおける人工知能や機械学習を知るためには、キーワードとして"Neuronet"という言葉を覚える必要があります。これは、ロシアではWEB4.0とも言われ、2030-2040年にかけて、人間・動物・人工知能がニューラルテクノロジーを活用してコミュニケーションするステージと定義されています。
また、2009年に、政府ービジネス・研究間の相互協力について発表があり、27のイノベーション技術分野について、政府が貢献していくことが決まりました。その内の一つである”未来医療”分野において、ニューロンテクノロジーが発表されました。
2014年にロシアベンチャーカンパニー(RVK)によって、国内外の専門家が集められ、ニューロンテクノロジー・ロードマップセミナーが開催されました。同年、プーチン大統領の要請によって、ナショナルテクノロジーイニシアチブ(NTI)が設立された際に、注力していく9つの成長分野の中に"Neuronet"が組み込まれ、その言葉の定義が生まれました。
▼ナショナルテクノロジーイニシアチブ
2015年、NTIの報告の中で、ロシアにおける2035年までの"Neuronet"ロードマップが正式に発表されました。
市場規模
2016年、世界のAI技術への投資額は5億USDに達しました。4大会計事務所のEY社の調査によると、2020年までに世界の人工知能市場は、運輸分野から教育分野に至る幅広い分野において、2000億USDまで成長するとされています。
以下は2016年に、世界でAIスタートアップ企業に投資された分野別投資額のグラフです。
出典: artificial intelligence company list
一方でロシアでは、上記のNTIが策定したロードマップの中では、2016年におけるニューラルネットワークの市場規模は4億Rubとされており、2020年には440億Rubと推定されています。2035年までに世界シェアの2.5%以上を取ることが目標に掲げられています。
国策
2015年に、大統領付属ロシア経済近代化・イノベーション発展評議会によって"Neuronet"は承認されました。これは、企業と個人からなる業界団体です。
2035年までのロードマップの中で、以下の市場セグメンテーションに分けて、イノベーションを加速化させていくとしています。
- NEURO PHARMA
遺伝子療法・細胞療法
パーソナライズ化された早期予防診断
神経変性疾患の予防と治療
健全者における認知能力の向上 - NEURO MEDTECH
神経プロテーゼと人工感覚
障害者のリハビリ現場におけるニューラルテクノロジーの活用
ロボットセラピー
ニューラルインターフェースの開発 - NEURO ENTERTAINMENT AND SPORTS
脳フィットネス
ニューラルテクノロジーを活用したゲームコンテンツ・ガジェットの開発 - NEURO EDUCATION
教育現場におけるVR/AR、ニューラルインターフェースの活用
ニューラルテクノロジーの教育プログラム・製品への応用
記憶力強化の為の製品、脳の働きを分析する製品 - NEURO COMMUNICATION AND MARKETING
ニューロマーケティング
生体認証データの活用による個人・マスの消費動態の予測
意思決定支援システムの構築
感情推定技術の発展
集団行動における生体プロセスの最適化技術 - NEURO ASSISTANTS
自然言語処理技術
ディープラーニング技術の発展
ヒトと機械の電脳ハイブリッドアシスタントのパーソナライズ化
政府は、教育科学省と金融省の予算の元、NTIへ125億Rubの予算配分を行なっており、2016年に80億Rubが消化され、2017年は残りの40億Rubが使われることになっています。
イベント
人工知能の開発が進んでいるのはモスクワのSkolkovoで、主にロボティクスの分野で研究が進んでいます。定期的に開催されるSkolkovo Roboticsでは、その研究成果を見ることができます。また、ロシアの検索大手Yandexも検索技術の中で、人工知能を活用しています。以下は、ロシア国内で開催されている主な人工知能系のイベントです。
▼Skolkovo.AI
画像解析、会話AI、チャットボット、チューリングテスト、AIインターフェースデザインの5つの主なトピックで2016/11に開かれたカンファレンス。
▼AI Hackathon St.Petersburg
FlINT CAPITALが2017/03にSpBで開催したAIハッカソン。
▼EDHACK: CHATBOTS AND AI HACKATHONS CUP
2016/09に教育科学省とedXが共催したAIとチャットボットのハッカソン。
スタートアップ紹介:
ビジネスプロセス最適化
▼Digital Genius
Digital Geniusは2016年、米Forbsの«30 Under 30»にノミネートされた注目のスタートアップです。ファンウンダーのDmitry Aksenovは、当時若干23歳。独学でロボット工学と人工知能を学習し、初めてロボットを作ったのは7歳という天才児だったようです。
Digital Geniusは、企業のカスタマーサービスをAI技術を使って効率化させるアプリケーションです。
コールセンターなどに導入され、SalesForceなどのCRMから過去の顧客とのやりとりをディープラーニングによって解析します。
顧客からくる問い合わせ(メール、ソーシャルメディア、メッセージアプリ、Live Chatなど)を優先度、質問形式、状況などの5つの項目でタグ付けし分類します。
質問内容に対してAIがベストアンサーを提案してくれるので、オペレーターはそのまま返答するか、文章を一部修正して、パーソナライズするかを選択します。
また、質問に対する返答の妥当性について、%で表示されるので、ある一定値を超えた段階で、自動返答する設定をすることができ、またその基準も自由に選択することができます。
人工知能というハイテクと、オペレーターというローテクをうまく組み合わせたサービスの実現を目指しており、このシステムの導入によって、オペレーターは最大30%まで、作業キャパを増やすことができるとされています。
また、カスタマーサービス以外にも、プロモーションとしてもDigital Geniusの技術は活用されています。例えば、昨年、ユニリーバのブランドであるクノールとパートナーシップを組み、アジアおよびアフリカ市場で展開した「Chef Wendy」があります。テキスト・メッセージを活用し、消費者が自宅にある食材でより良い食事を作るようレシピを提供するサービスです。
ジョージア(旧:グルジア)との国境付近、カフカス山脈の麓の町、ヴラジカフカスで生まれたDmitry Aksenovは、2008年にロンドンへ留学します。その後、カレッジに進み、在学中に今のビジネスモデルの原型を発案します。創業は2013年、今では30人弱のチームを抱えています。2015年に$3M、2016年に$4.1Mのシード投資を受けています。ラウンドには、以前に紹介したRuna Capitalも参加しています。
オフィスはロンドンとNYにあり、Digital Geniusの他に、Fin Geniusという金融業界に特化したカスタマーサービスAIも運営しています。
インタビュー記事→
▼Behavox
主に金融業において、ビッグデータと機械学習、音声認識のテクノロジーを使い、企業内コミュニケーションにおけるコンプライアンス遵守を助ける。
▼Leadza
ニューラルネットワークを活用したFacebook・Instagram広告最適化サービス。
▼GuaranaCam
機械学習を活用したオフライン広告最適化サービス。商業施設の監視カメラネットワークを利用して、来店者の購買活動を分析する。
▼LogistiX
人工知能を活用した倉庫機能最適化。
▼BFG Soft
クラウド型プラットフォーム。ビッグデータやAIを使って、製造業における新しい設備導入や業務改善プロセスのビジュアルモデルを作成する。
ロシアでも人工知能を活用したサービスは、生まれてきていますが、世界と同様に、人材獲得競争になっています。国もプーチン大統領のイニシアチブにより、人材育成、国際競争力強化に乗り出していますが、西側との差は大きく開いているのが現状です。
今後の動向に注目したいと思います。