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新法案に揺れるロシア遠隔医療市場

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規制の入ったロシア遠隔医療

7月30日、遠隔医療についての法案改正にプーチン大統領が正式に署名しました。これにより、ロシアには遠隔医療について明確な規制がかかることになりました。

vc.ru 

 

法案によって、明確に定義されたのは、大きく分けて以下の3点です。

  • 医師は遠隔診療で「診断」を下すことはできない。遠隔で医療コンサルテーション(「診断」には該当しない)を受けることは可能だが、2回目以降の診察に限る。初診は従来通り、病院にて診察を受けなければならない。
  • 患者は遠隔でも処方箋、証明書などの各種書類を電子版で受け取ることができる。
  • 患者は医師から医療コンサルテーションを受ける際は、政府が管理する一元管理システムへの登録が必要となる。

政府が一元管理する医療システムには、ロシア全土の公立病院、私立病院、各種医療機関が接続され、電子カルテシステムが導入されます。タス通信によると、このシステムの開発・保守点検にかかる予算は年間7億5000万ルーブルと試算されています。

 

法律の施行は2018年1月からです。IT業界は今回の法案を非常に残念に受け止めています。遠隔診断を認めるべきと、既存の医療業界と戦ってきたインターネットイニシアティブ開発基金のヌルベコフ氏はインタビューの中で、「我々は昨年この議論を始めた時点に戻ってしまった。法案は患者のリモートによる経過観察についてであって、遠隔”医療”についてではない」と答えています。

 

それでも、専門家たちはここ3〜5年でロシアにおける遠隔医療は大きく発展する分野だと信じています。今回は、ロシアの遠隔医療について、見ていきたいと思います。

 

 ▼遠隔医療についてはこちら 

medicalappnavi.com

 

成長する民間の医療サービス市場 

ロシアにおける医療分野は、日露経済協力プランの中でも1番目に挙げられるほど、関心の高い分野であり、成長が期待されています。GDPも-0.6%を記録する中、2016年のロシア医療市場は、前年対比+4.7%の2,2兆ルーブルにまで成長しました。特に近年、民間の医療サービス分野の成長率が高く、2015年には6,720億ルーブルの市場規模になっています。

出典: BusinesStat

 

経済制裁とインフレーションによって、相対的な可処分所得が減っている現状でも、医療費への支出を抑えているのは、低所得グループであり、ミドル層、アッパーミドル層の食と健康への購買力は落ちていません。中でも、民間の医療サービスは、ロシアの国立病院などの公的サービスでは受けることができるものではない為、需要が集まっています。

 

▼ロシアの医療制度についてはこちら

mtcjapan.ru

 

ロシアの遠隔医療

現在、ロシア遠隔医療の年間サービス利用者は1,000万人とされており、1回の利用金額の平均が500ルーブルであることから、市場規模は50億ルーブル程度と試算されています。また、専門家によると、市場規模はここ3〜5年で200億ルーブル程度まで成長すると見られており、これは年率+40%の成長率です。

 出典:エクスペルト紙から試算

 

ロシアで遠隔医療の技術が必要とされ、発展してきている分野としては、大きく分けて以下の4つが挙げられます。

  • 時間外診療、救急医療
  • 小児医療(特に生まれて1年目は、医師への相談機会は多いが、通院する必要がない場合も多い)
  • 慢性疾患患者の経過観察(通院にかかる費用と労力をかけたくないという意思が働き、患者が診察に来ずに重症を引き起こすことがある)
  • セカンドオピニオン

実際に、小児科医に特化した遠隔医療サービスの「Pediator24/7」への問い合わせにも、その傾向を見ることができます。

出典:モバイルメディカルテクノロジー

 

▼「Pediator24/7」 の詳細はこちら

russiabuzz.hatenablog.com

 

 

現場の医師たちも遠隔でコンサルテーションする事に関しては、概ね理解を示しているようです。医師たちによるクローズドなネットワークサイト「Doctor at  Work」が25,000人医師を対象にしたアンケート調査によると、回答者の70%が妥当性の検討には準備があるとし、メリットを感じられないと答えたのは7%にとどまりました。

出典:Doctor at Work

 

また、65%以上が遠隔でのコンサルテーションに対して、反対しないと回答しています。一方で、反対した医師の多くが、外来診療なしでの診察に難しさを感じているようです。

出典:Doctor at Work

 

これには、ロシア特有の事情が関係しているかもしれません。アンケート回答者の75%が診察室以外(ほとんどが電話ではあるが)で、患者とコミュニケーションしている事がわかりました。実際、私もかかりつけの医師とはViberで常に連絡が取れるようになっています。

▼かかりつけ医とはメッセンジャーで繋がっており、色んな事を質問できる

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 一方で、アンケート結果からは、実際に遠隔でのコンサルテーション経験があると答えた医師は、全体の21%にとどまりました。現場では、医師と患者の遠隔のコミュニケーションが成り立っているにも関わらず、遠隔でのコンサルテーションというと、回答率が下がるのは、遠隔医療に対する正しい認識の問題も含まれているのかもしれません。

出典:Doctor at Work

 

ロシアにおける遠隔医療のプレイヤーは大きく分けて、以下の3つに分けられます。

  1. IT企業(遠隔医療に特化したプレイヤーと大手IT企業の1サービスに分けられる)
  2. 国立病院、私立病院、各種医療機関
  3. 保険会社 

現在、遠隔医療における契約形態は、サービスプロバイダー(1.のIT企業)と医療機関のBtoB契約になります。医師と直接の契約を結ぶことはありません。医療機関はサービスプロバイダーとの間で手数料のやりとりを行います。サービスプロバイダーは、基本はプライベートクリニックとの契約を好みます。公立の病院に比べ、意思決定のスピードが早いからです。

 

また、保険プランの一部に遠隔での医療コンサルテーションをサービスとして導入する、保険会社が出てきています。年間5~7,000ルーブルの保険料で、提携の医療機関から何度でもオンラインコンサルテーションを受けることができます。専門の医師への診察を希望すると、外来で1回2,100ルーブル、通常のオンラインコンサルテーションであれば800ルーブルがかかります。これに目をつけた保険会社が、他者との差別化で遠隔医療の分野に進出してきています。

▼「VTB銀行」は子供向けの個人加入保険にオンラインでの医療コンサルテーションのサービスを組み込んでいる
5,900ルーブルプラン:初診科の先生からコンサルテーションを受けることができる
12,900ルーブルプラン:専門の先生からコンサルテーションを受けることができる

www.vtbins.ru 

 

▼「ルネサンス保険」は「ドクトルリャダム」と提携して、個人加入保険の購入者に初年度は無料でオンライン医療コンサルテーションのサービスを提供する

www.renins.com

 

上記は、任意医療保険ですが、今後、オンラインコンサルテーションに強制医療保険の適用が検討されるようになれば、大きく市場が拡大していくことが予想されます。そうなると、今後は国立病院でもオンラインコンサルテーションの導入が進む可能性があります。

出典:BusinesStat

 

 今後も成長が期待されるロシア遠隔医療ですが、今回の法案成立を受けて、成長が鈍化するのか、それとも明確な指針が示された事によって、参入プレイヤーが増え、市場は拡大していくのか。今後の動向が注目されます。

 

次回は、遠隔医療のITプレイヤー達を紹介します!

 

参考記事→

vc.ru