【ロシアスマートフォン市場の現状】
移転しました。
ロシアは今日、IT大国として知られ始めている一方で、“ロシアのスマートフォン市場”と言うと、全くイメージの沸かない人がほとんどなのではないでしょうか。
今回は、ロシアのスマートフォン市場の現状を分かりやすくより身近な視点から解説していきます。
⑴ロシアスマートフォン市場~大手による独占市場化の傾向?~
IDCが発表した「2018年ロシアスマートフォン市場のメーカー別シェア率」の調査結果によれば、現在大ブランドによる市場の独占化が進行しつつあることが明らかです。
サムスンは市場の3割近くを占め続けており、不動の地位を保ち続けています。2番目にHuawei(中国)とそのサブブランドのHonor、 3位にはApple、そして4位にはXiaomi(中国)という結果です。Androidベースのスマートフォンの市場の大部分は、Samsung、Huawei / Honor、Xiaomiが占めており、その合計シェアは61%にものぼります。
ここで注目すべきは、2018年の「その他」カテゴリーのスマートフォンブランドのシェアが9%となっていることです。2017年末には24%であったことから考えると、15%もの大きな落ち込みが見られます。このカテゴリには、Irbis、Motorola、Philips、LG、Micromax、Nubia、Sony、Vertex、Oppo、Vivo、Meizu、ZTE、Doogeeなどの様々な国のブランドが含まれています。これらのブランドは、大規模なマーケティングプロモーションが不可能な中小企業であることが多いことに加え、スマートフォン事業自体がこれら企業の副ビジネスに過ぎないため、大手ブランドとの競争が難しいということが考えられます。
⑵勢力を拡大しつつある中国系スマートフォン
「Counterpoint Technology Market Research」が発表した調査結果によると、2018年に中国のスマートフォンメーカーHuaweiはロシアでの携帯電話の販売数でAppleを上回り、将来的にSamsungの販売数を追い抜くほどの勢いで成長しています。 Appleのシェアは10%に低下し、続いてXiaomi(中国)が8%の結果となりました。「Counterpoint Technology Market Research」は、ロシアは依然としてAppleにとって重要な市場であると述べていますが、ロシアと米国の間の貿易関係の悪化や経済制裁が、ロシア市場における同社の事業に影響を与える可能性があるとも述べています。
ロシアのスマートフォン市場における中国企業全体の売り上げは135%伸びとなりましたが、中でもHuawei社は240%増のさらに大きな成長を記録しました。 Huaweiの「Honor 9 Lite」は、2018年第2四半期のロシア市場で最も販売台数の多いスマートフォンとなりました。また、Xiaomiのシェアは、1年間で2倍以上になりました。
中国ブランドが売り上げを伸ばしている要因は、とにかく「安価でありながら、サービス・機能性に優れている」ことだと言うことができるのではないでしょうか。具体的には、スマートフォン機器の下取りサービス、安い料金プラン、より大きなメモリ容量を持つスマートフォンなどです。
さらに、Tele2やBelineなどといったロシアの通信キャリアとの強いパートナーシップによりロシアにおける小売事業を着実に拡大していったことや、Yandexのような大手IT企業とのパートナーシップも、中国ブランドの成長に大きく関わっています。今や、ロシアの4大通信キャリアの全てが中国ブランドのスマートフォンを主力として売り出しています。また、より大きなメモリ容量の中華ブランドスマートフォンを購入したのち、通信キャリアの様々なプランと組み合わせて利用する人も多くみられます。そして、地図アプリからマーケティングまで様々なサービスを提供するYandexは地域のエコシステムの形成者であると言っても過言ではありません。こういった企業の技術やサービスを取り入れることで、中国ブランドはロシアの人々により適したスマートフォンへと成長しました。
それだけでなく、中国ブランドは現在スマートフォン機器のインターネット販売を拡大しているため、販売台数が増加したとも考えることができます。
⑶国産スマートフォン
Samsung、Apple、中国ブランド…ここまで説明した通り、ロシアのスマートフォン市場は専ら海外ブランドによって占められています。しかしながら、もちろんロシア国内メーカーのスマートフォンも存在します。例えば、Yandexは昨年2019年の11月に完全に自社製のスマートフォンを発売したことで話題となりました。また、2013年に登場した「Yota phone」は、背面に電子ペーパーを搭載しており、当時は珍しいスマートフォンとして話題になりましたが、Yota社は今年の4月に破産しています。
前項で取り上げた「Counterpoint Technology Market Research」の調査の中で、「BQ Mobile」はロシアブランドとして唯一トップ5スマートフォンにランクインしています。2018年には7%のシェアを占めており、プラスの成長率を記録しました。最近では、「3日間充電しなくてもOK」をうたったバッテリーの持ちに優れた「Strike Power」シリーズを発表しています。価格は最新機種であっても1万円ほどと、かなり手頃だと言えます。
⑷ロシア発スマートフォン期待の新星「Inoi」
最後に、今後の躍進が大いに期待できるロシア発のスマートフォン機種を紹介します。
「Inoi」は2016年にスタートした会社です。
2017年にバルセロナで行われた見本市「Mobile World Congress 2017」にて初代スマートフォン「INOI R7」を出品しています。「INOI R7」は企業向けに設計されたスマートフォンであり、ロシア政府が認可している独立系モバイルOSプラットフォーム「Sailfish Mobile OS RUS」を採用しています。(Sailfishはもともとフィンランドのスタートアップ「Jolla」によるOSプラットフォームですが、2016年にロシア政府が認証を取得しました。)驚くべきことに、ロシア郵便が「INOI R7」を業務用スマートフォンとして採用し、1,5万台を購入しています。
同社がアンドロイドを発表したのは2018年。それにも関わらず、2018年上半期の時点で既にロシアのスマートフォン小売り市場において3,7%を占めるまでに急成長しました。
さらに、Sailfishを搭載したタブレット「INOI T8」は、専ら試験運用のためではあるものの、ロシア通信最大手のロステレコムによって購入されました。
ロシア初ともてはやされたYota phoneが失敗に終わってしまった今、勢いとさらなるポテンシャルを秘めたInoiのロシアスマートフォン市場での今後の活躍が期待されます!
⑸まとめ
ロシアにおけるスマートフォン市場は、現在成長しつつある注目すべき市場であるとみなすことができますが、この成長の主な原動力は中国ブランドであることを忘れてはなりません。したがって、今後中国企業がどのようにロシアで事業を展開していくか(ロシア企業との合弁など)がこの市場のカギとなるでしょう。また、Yandexのように、ロシアのIT企業がスマートフォン市場に今後参入していくことも期待できるのではないでしょうか。
(執筆・編集:田中 真奈美 / リサーチ:田中真奈美、イリーナ ・スクドノーヴァ)