急成長するロシアカーシェアリング市場
移転しました。
写真:ant22.ru
近年、モスクワ、サンクトペテルブルクの大都市では、灰色地や白地にオレンジのセダン、黄色ボディの軽自動車をよく見かけるようになりました。これらはカーシェアリング用の車両です。
仕組みはいたって簡単です。
- 専用のアプリをダウンロードし、会員登録を行います。
- アプリの地図上から利用可能な車両を選択し、予約します
- 車両に到着したらアプリ上で開錠作業を行い、乗車します。
写真:YouDrive
乗車終了時も同様に、アプリ上から操作し、決済と施錠を行います。基本的な課金体系は、分単位の従量課金制です。今回は、急成長するロシアのカーシェアリング市場についてみていきたいと思います。
カーシェアリング事業者参入の歴史
ロシアで初めてカーシェアリングのビジネスが始まったのは、意外にも2013年のことです。モスクワでAnytime、サンクトペテルブルクでストリートカーが事業をスタートしています。カーシェアリングは、車両の準備や駐車場の整備、ソフトウェアの開発など、他のITサービス産業に比べて、初期投資が大きくなりがちなビジネスです。ストリートカーは、当時、500万米ドルを投資して事業をスタートしましたが、市場が追いついてこなかった事もあり、2015年に撤退しています。
2015年以降、いくつかの事業者が市場参入を果たしますが、ロシアにおけるカーシェアリングビジネスの火付け役は、2015年秋に参入したデリモービルです。以前からモスクワでは、交通渋滞が深刻な社会問題となっており、2013 年を境に、市が管理する有料駐車場が登場し、路上駐車が厳しく取り締まられました。
モスクワ市は2015年にカーシェアリング事業者へ市内有料駐車場利用の優遇措置プログラムを発表し、1年間2万ルーブルという破格の値段を提示しました。デリモービルは市場参入と同時に、モスクワ市に掛け合い、プログラムに採択されました。また空港での駐車場も提供されました。モスクワ市はカーシェアリングを渋滞解消、市民生活向上の施策と考え、「Moscow Carsharing」としてブランディングしモスクワのカーシェアリング市場は、世界市場の中でも最も急激な伸びをみせていると言われています。Yandexによると、すでに40万人以上の利用者がいるとされています。
モスクワ市内の広告には「Moscow Carsharing」の下に、各事業者の企業ロゴが掲載されています
一方で、日本は2010年頃から利用者が伸び始め、2017年5月時点で108万人の利用者がいます。日本は駐車場管理事業者やレンタカー事業者がカーシェアリング市場に参入し、シェアを獲得しているという点が、ロシア市場とは大きく異なっています。
デリモービルが市場を牽引
現在のロシアカーシェアリング市場には20社を超えるプレイヤー企業がいるとされていますが、そのうち上位5社を紹介したいと思います(料金比較は表1)。
1.デリモービル
2015年にモスクワで事業を開始。現在のロシアカーシェアリング市場で最大のシェアを誇ってます。車両台数は2230台。大都市以外にも地方都市にも展開し、現在8都市でサービス展開中。2018年2月にはシベリアのノボシビルスクに進出を果たしました。
写真:デリモービル
デリモービルが認知度を高めた理由の一つに、2016年のSNS炎上事件があります。利用者が起こした車両事故において、再三にわたってペナルティ金額が増額され、広告とは異なる支払い請求がされたこと、当時のPR担当者の対応姿勢の悪さがSNS上で炎上し、マスメディアにも取り上げられるスキャンダルとなりました。
2.Belkacar
2016年11月にモスクワで市場参入。カリフォルニア州立大学のMBAに通っていた女性3人で創業しています。そのうちの一人、エカテリーナ・マカロヴァは、スコルコボビジネススクールのコース修了生。その為、スコルコボ敷地内で電気自動車を使った実証実験を行うなど、スコルコボとの関係が深いです。事業展開はモスクワ市とモスクワ州のみで行っており、1900台以上の車両を整備しています。モスクワだけでみると、前述のデリモービルよりもシェアが高くなっています。
写真:Belkacar
3.YouDrive
2015年に事業スタート。現在は、モスクワ、サンクトペテルブルク、ソチの3都市で展開中。車両台数は1100台。2018年2月には、個人事業主のタクシー運転手向けに、タクシーとして利用できるライセンスのある車両をカーシェアリングする「ユードライブ・ビジネス」をスタート。その他にも、二人乗り車、プレミアム車両の導入など、積極的に他社との差別化を図っています。
写真:YouDrive
4.Anytime
ロシアカーシェアリングの草分け的存在で、2013年にモスクワで事業をスタート。市場が未発達な段階での参入にも関わらず、現在までサービスを継続することができています。車両台数は667台。
写真:Anytime
5.Car5
Каршеринг в Москве, Санкт-Петербурге, Сочи, Новосибирске. Онлайн аренда автомобиля по всей России
モスクワ第3のカーシェアリングとして、2016年に市場参入を果たしました。当時は、利用費用が1分5ルーブル、待機費用が1分1.5ルーブルで、最安値での市場参入でありました。車両台数は200台。
写真:Car5
大手IT企業Yandexの参入
2018年2月、Yandexがカーシェアリング事業への参入を発表しました。サービス名は「Yandex Drive」。従来のカーシェアリング事業者が提供している、利用時間(分)単位の課金体系の他に、到着地を登録して固定金額が表示される料金体系も準備しています。現在の対象地域はモスクワのみで、750台の車両が準備されています。
大手IT企業の参入は市場規模を大きく成長させる可能性があります。一方で、Yandex Taxiがそうであったように、今後、零細事業者をどんどんと飲み込み、単なるカーシェアリング事業者ではなく、プラットフォーマーになる可能性があります。市場が寡占状態になれば、価格競争やサービス競争が起きづらくなります。Yandex Driveの動向は今後も注目されるでしょう。
今後の課題と展望
大きく成長するロシアのカーシェアリング市場ですが、まだまだ課題も多いです。例えば、車両台数が少なく、いざ利用しようとしても近場に車両がない、アプリで操作するので、インターネットに接続できない郊外まで行くと、利用終了の操作ができず無駄な課金が発生することなどが挙げられます。また、アプリそのものの精度(アプリ上で示された場所に車両がない、残燃料が間違って表示されるなど)含め、改善すべき点は多いといえます。
とはいえ、カーシェアリングは周辺市場も含め、ロシアの生産性向上に大きく影響する可能性があります。すでに電気自動車での実証実験が始まっており、カーシェアリングでの電気自動車の配車が進めば、電気自動車普及に大きく影響することが予想されます。また、ヤンデックスは先日、モスクワ市内における自動運転の模様を動画で発表し、市場を驚かせました。ヤンデックスタクシーから導入が進められていくとされていますが、将来はカーシェアリングへの転用も十分に可能性があります。
Yandex Self-Driving Car. Moscow streets after a heavy snowfall
(モスクワ市内を自動運転する様子)
経済制裁後、公共交通機関の利用は増えており、自動車の購入価格は今後も上がっていくことが予想されます。タクシー配車アプリの普及と共に、カーシェアリング 、また、郊外へのライドシェア(一般人の運転する車両の相乗り)などのモビリティに関するシェアリングエコノミーが、都市部を中心に大きく発展していくと考えられます。
表1 各社料金比較&車両タイプ
|
Anytime |
Belkacar |
デリモービル |
Car5 |
YouDrive |
Yandex |
一般 |
普通車 8~12rub |
普通車 8rub |
7~8rub |
普通車 5~8rub |
8~14rub |
朝 5~6rub |
待機 |
2~3rub |
普通車 2rub |
2.5rub |
2rub |
2.5~3.5rub |
1.5~3.5rub |
無料 |
20分 |
20分 |
20分 |
20分 |
20分 |
20分 |
夜間 |
00:00~09:00 |
23:00~07:00 |
00:00~06:00 |
23:00~07:00 |
23:00~08:00 |
23:30~05:30 |
車両 |
Hyundai Solaris, Kia Rio |
Kia Rio |
Datsun mi-DO |
Smart ForTwo |