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ロシアのITベンチャー、WEBサービス、起業家、スタートアップを紹介します。

"Startup of the Year 2016"(2) ~ハードウェア・フィンテック賞~

移転しました。

前回に引き続き、”Startup of the Year 2016”の受賞チームを紹介したいと思います。 

 

ハードウェア賞:Apis Cor

apis-cor.com

 

Apis Corはシベリアイルクーツクで生まれた建設用モバイル3Dプリンタのスタートアップです。トラック一台で移動できる2tのモバイル3Dプリンタで、実際に住宅用建物を建設することができます。

 

https://d2ygv0wrq5q6bx.cloudfront.net/uploads/image/files/79525/37f36e6bce56d7a5068af8ea8b94195b73918195.gif

 

 

このユニークな技術は日本でも既にTABI LABOやGigazineを通じて紹介されています。

tabi-labo.com

 

gigazine.net

 

3Dプリンタはアーム部分と、建設用のコンクリート材を混ぜるミキサーからできています。実際の建築現場に機器を持ち込んでからのセットアップ時間はなんと30分です。現場で必要な作業員はたったの2人で、最大で132㎡の建物を建設することができます。

 

従来の建設用3Dプリンタはブロック材をプリントして、建設現場に搬送し組み上げます。Apis Corは、現場で直接建設をしていくので、納期も短く、コストも大幅に削減できることが強みです。

http://i.gzn.jp/img/2017/03/06/apis-cor/a40_m.jpg

 

動画の中では、38㎡の平屋をわずか1日で建設する様子が映し出されています。この建築費用は既存の工法で作られる一般的な箱形の住宅に比べて、1㎡単価で223ドル(約2万5000円)も安く、45%も建築コストを抑えられるとのことです。

Apis Cor 3d printer

  

創業者のNikita Chen-iun-taiはイルクーツク出身の26歳です。

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幼い頃からロボティクスに魅せられ、高校生になる前には自分で書いたFXのプログラムで、当時としては大金であった140,000Rubを稼いでいました。18歳になると屋外広告の制作をする会社を自分で立ち上げました。2014年のソチ五輪でいくつかの大きな契約が決まり、その資金を使ってApis Corをスタートしました。

 

現在チームは20人ほどで、オフィスはロシアではイルクーツク以外にモスクワがあります。また、2015年に米サンフランシスコにUSオフィスを作っています。

 

2016年2月にはSkolkovo Fund主催の"Startup Tour in Irukutsuk"で3位入賞を果たし、同年4月には同じくSkolkovo Fund主催の“Technostart-2016”で3MRubのグラントを獲得しています。

Startup Tour
Skolkovoが毎年開催しているビジネスコンクールです。14都市で開催され、2,000以上の応募があります。

 

 

現在、パートナー企業としてSiemens Finance LtdとSamsung Electronicsなどの大手メーカーと提携しており、グローバル展開に非常に意欲的に取り組んでいます。

 

 

 

フィンテック賞:Кoshelek(露:Кошелек)

 

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https://cardsmobile.ru/

 

Koshelekは、財布に溜まりがちな銀行カードや各種割引カードなどをスマートフォン一台で持ち運びできるモバイルappです。 


Приложение «Кошелек»

KoshelekはNFC(近距離無線通信)技術を活用しており、端末にかざすだけでモバイル決済や、ポイント加算ができるようになっています。同様のサービスとして、Sumsung walletやAppleのWalletがあります。

 

Koshelekが提携しているカードは、以下の通りです。

  • 販売業者ー割引カード、プレミアム会員カード、クーポンチケット
  • 銀行ーデビットカード、クレジットカード
  • 公共交通機関ー地下鉄・バス乗車カード

販売業者との提携が始まったのは2016年からで、提携先はNikeSony、O'STIN、Samsungなどのグローバルメーカーをはじめ、M.videoなどの国内リテーラーへもサービスが拡大しつつあります。デジタル化されたカードは1,100万枚以上、ダウンロード数は300万を超えています、カード発行企業は14万社以上です。

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提携銀行は国内銀行がメインです。Bank Saint Petersburg、Moscow Industrial bank、Russian Standard Bank、Tinkoff Bankなどがあります。また、MasterCardとはビジネスパートナーシップを結んでおり、各種PRでタイアップしています。

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公共交通機関では、すでにロシア国内の20地域で導入が進められており、その中にはサンクトペテルブルクやモスクワなどの大都市も含まれています。公共交通機関の乗車カードと販売業者が提供する会員カードを一つのアプリで管理するのは技術的にも難しく、日本でもようやく2016年からApple PayによってSuicaが使えるようになりました。

style.nikkei.com

 

創業者のCyril Gorynyaは、サンクトペテルブルクのIT企業「iFREE」の創業者であり、シリアルアントレプレナーです。iFREEはモバイルコンテンツのディストリビューターとして2001年に創業しましたが、その後モバイルappやスマホゲームの開発、Web広告事業、メディア事業などIT分野での事業の幅を広げ、2014年にはロシアForbsでIT分野の6位にランキングされた大企業です。その後、ベンチャーファンドも立ち上げ、Koshelekにも出資しています。

www.i-free.com

 

Koshelekの開発ヒストリーは、実は日本とも密接に関わっています。2007年、Cyril Gorynyaはビジネス研修で来日し、その際にSonyを訪れています。その時に初めてNFC技術を紹介され、ロシアに持ち帰り6年の歳月を経てプロダクトとして、完成させました。ロシアでは2004年頃からSMSによるモバイル決済が既に始まっていましたが、2000年代にNFC技術は全く相手にされていませんでした。

 

Koshelekにとってのターニングポイントは、Apple Payがスタートした2014年でした。2013年、Apple Payがスタートする半年前にKoshelekはサービスローンチしました。NFCによるモバイル決済システムとしては、ロシアではGoogleに次いで二番目のサービスローンチでした。それまで、全く見向きもされなかったKoshelekの技術は、Appleの市場参入により、大きく注目されるようになりました。

 

Koshelekを運営するCardsMobileは、Skolkovoレジデンツであり、2016年にはロシアの大手ITソリューション企業LANITから29%の株式と引き換えに、$2.5Mの出資を受けています。これにより、現在の企業価値は$8,74Mと試算されています。

 

現在KoshelekはHTC、SonyPhilipsなどのスマートフォン180万台以上にデフォルトとして設定されており、2016年にはiOSバージョンもローンチされました。年間売上は70MRubと発表されており、今後はQiwiやYandexなどの国内決済事業者と、AppleSamsungなどのグローバルプレイヤーとも熾烈な競争を勝ち残っていかなくてはなりません。

 ▼Qiwi 
三井物産が出資した話でも有名になったロシアの決済システム会社です。

qiwi.com

 

▼Yandex Money
ロシアの検索エンジン大手Yandexが保有する決済システムです。

money.yandex.ru

 

 

 最終回は、ソーシャルスタートアップ賞とオーディエンス賞を紹介します。