SPBを代表するインキュベーター”イングリア”
移転しました。
政争に巻き込まれたテクノパーク建設
今回は、サンクトペテルブルクを代表するインキュベーター”イングリア”を、
訪問してきました。
2008年、ヨーロッパやアメリカをモデルに、イングリアはビジネスインキュベーターの
パイロットプログラムとして、設立されました。
イングリアはテクノパークとしての顔も持っており、サンクトペテルブルク市100%出資の株式会社テクノパーク サンクトペテルブルクが運営会社です。
テクノパーク”イングリア”は、2006年にサンクトペテルブルク国立通信大学の構想によって、そのプロジェクトがスタートしました。
サンクトペテルブルクはプーチン大統領の出身都市でもあり、テクノパーク建設は彼の肝いりのプロジェクトでした。モスクワ・スコルコヴォのカウンターパートとして、建設が予定されていましたが、2015年に完成予定だったものの、未だに建設中です。
当初は、ノヴォシビルスクのアカデミーパーク等と同様に、国家予算が入って、建設される予定でした。しかしながら、その権利帰属がサンクトペテルブルク市なのか、国家なのかを巡り、裁判にまで発展しました。その結果、国家予算の編成が見送られてしまい、サンクトペテルブルク市と個人投資家による投資だけでプロジェクトがスタートしました。初期の2012年完成予定は延期され、建設会社と建設構想も幾度となく変更されました。完成予定地における住民からの土地の買い上げも遅々として進みませんでした。
300億Rub規模の大投資ですが、未だにその構想は宙に浮いたままになっています。
2016年から建設が再開され、次の完成予定は2023年だそうです。
入居条件
入居条件は、通常プログラムと通信プログラムによってそれぞれ異なります。
プログラムに参加しても、株式取得等の条件はありません。
通常プログラム 4500Rub/月
- コアワーキングスペース1席/24h 週7日
- エキスパートセッション参加/年2回まで
- VC Day・Demo Day・One-on-on meeting参加/クオーターで最低4回以上
- メンターセッション/クオーターで最低1回以上
- 会議室利用/月3hまで
- カンファレンスルーム/クオーターで1回 8hまで
- 専門家による個別コンサルティング/月3h
- パートナーネットワークへのアクセス・インターネット/無制限
通信プログラム 2500Rub/月
- コアワーキングスペース1席/24h 週7日
- エキスパートセッション参加/年2回まで
- VC Day・Demo Day・One-on-on meeting参加/クオーターで最低4回以上
- メンターセッション/クオーターで最低1回以上
- 専門家による個別コンサルティング/月1h
- パートナーネットワークへのアクセス・インターネット/無制限
- 会議室利用/1h 500Rub
- カンファレンスルーム/1h 700Rub
▼コアワーキングスペース
▼会議室
▼カンファレンスルーム
上記以外でも、入居企業は別途費用を払えば、追加で会議室の利用や、コアワーキング
スペースの席を確保することができます。また、入居企業でなくても、以下の費用を支払えば入居企業と同じようにサービスを利用できたり、イベントに参加できます。
非入居企業
- コアワーキングスペース1席/1h 150Rub
- エキスパートセッション参加/1回 5,000~9,0000Rub
- 会議室利用/1h 950Rub
- カンファレンスルーム/1h 1,500Rub
- 専門家による個別コンサルティング/1h 3,000Rub
また、月5,000Rubを支払えば、オフィスを借りることもできます。
▼オフィス
大学・企業・海外との
連携が進む
実績
2009〜2015年までにイングリア入居企業が受けた投資総額は20億Rub以上、
売上総額は30億Rubを超えます。これまでに400社以上のスタートアップや
イノベーション企業のサポート実績があります。
元々が国立通信大学の構想であり、大学との連携も進んでいます。ITMOのビジネスインキュベーターの立ち上げにも関わっています。2016年には、教育機関との連携が進むインキュベーターとしてロシア3位に位置付けられました。
また、近年では、北欧発のアクセラレータープログラムStartUPSaunaの誘致も行いました。
イベント
Startup Lynch
毎月1回、最終金曜日の昼11時から開催されるビジネスピッチイベントです。対象者は、入居企業、入居希望者など申請すれば誰でも参加することができます。5分間のピッチと、15分間の専門家からのフィードバックで構成され、毎回4〜10のプレゼンテーションが行われます。イングリアの登竜門的なイベントです。
Technology Transfer Day
年に3回行われる、イングリアを象徴するオープンイノベーションのイベントです。
こちらもビジネスピッチイベントですが、Startup Lynchとの大きな違いは、
一般企業とスタートアップのマッチングが目的であるという点です。
毎回違ったテーマで開催され、テーマに合った一般企業がパートナーを務めます。
2014年にスタートからすでに13回以上開催され、イベントを通して17の契約が
結ばれています。5分間のピッチと、5分間のFAQで構成され、10前後のプレゼンテーションが行われます。
2016年のテーマ
▼Technology for Life
▼Technology for Megapolis
▼Design Day
Startup Sauna
Startup Saunaはフィンランドで始まったアクセラレータープログラムで、2010年から
始まり、今年で7年目になります。北欧、バルト3国、ロシア・東欧を中心に14カ国・20地域で、春と秋の半年に1回ずつ地域選考が行われ、各地域上位3チームがヘルシンキで行われる7週間のアクセラレータープログラムに参加できます。アクセラレータープログラムの参加者は、Slushへの参加資格が与えられます。また、選ばれたチームはベルリン・ロンドン、シリコンバレーへのツアーに参加することができます。
モスクワの注目スタートアップWindyもStartup Saunaの卒業生でした。
イングリアでは、Startup Saunaのパートナーとなって、地域選考の運営をしています。
イベントには、フィンランドから専門家も召集し、ビジネスピッチは英語で行われます。
入居企業
イングリアのLeoとAlexseyにイングリアの中堅スタートアップを紹介してもらいました
(6~10人くらいのチームで、月商が約200万Rub)。
▼Conomy
個人のマイクロ投資向けレコメンデーションサービス。企業の営業実績や財務実績などの統計データを解析して、投資家に最適な投資先を提案する。利用料は、500Rub/月、5000Rub/年を選択できる。同社の提供する、Conomy Portfolioは自動投資ポートフォリオ作成ツール、Conomy Rightは投資ロボアドバイザーサービス(手数料40Rub/1売買)。
▼Stafory
人材採用プラットフォーム。企業の採用情報とリクルートエージェント・フリーランスのヘッドハンターをマッチングする。利用料、手数料は現在無料。同社が提供する人材採用ロボ”ベラ”は、採用情報を入力すると、インターネット上のサイトにアップされているレジュメを検索し、条件に合う候補者に自動的に連絡し、採用情報について説明する。その後、候補者は自動的に送られた採用条件の詳細を受け取り、条件が合えばビデオインタビューを受ける。すでに1,200以上のビデオインタビューが”ベラ”を通して行われ、採用実績も出始めている。
利用料は4,500〜300,000Rub(1レスポンスあたり30〜90Rub)。
イングリアは、今後イベント運営を通じて、大企業とスタートアップのマッチングプラットフォームとしての機能を強化することを目指しています。オープンイノベーションを活用した大企業との連携は、IPOの少ないロシア市場にとって、スタートアップに残された可能性かもしれません。またStartup Saunaなど、スタートアップの海外展開支援も積極的に進めており、アジア市場に関しても非常に興味を持っています。将来、日系企業がサンクトペテルブルクのスタートアップに投資する日が来るでしょうか。
参考記事→